【2018ロシアワールドカップ】日本代表の軌跡
今回のW杯は日本らしさを発揮して結果を残した素晴らしい大会だった。
コンパクトな陣形を意識しながら、敏捷性とスタミナを生かし、二列目で細かくポジションチェンジを繰り返し間で受けてのチャンスメイク、攻守の切り替えの早さと献身的なプレスと粘り強い守備。日本らしいサッカーを追いつつも、対戦相手ごとにしっかり対策を取れていた。
ベルギー戦でも、組織的とは言えないベルギー3バックの裏が狙い目なのは明白で実際にそこを突いて得点にも繋がった。
簡単にベルギー戦を振り返りながら、今回のW杯での日本代表の課題と武器、そしてこれからについて書いていきます。
2点リードするまで
前半の序盤はコンパクトな守備組織でしっかりと守れていた日本でしたが、ベルギーがピッチを広く使い揺さぶってくるとプレイスピードに付いていけず、徐々にいつ崩されてもおかしくない展開になっていきました。
日本としては前半は無失点で折り返して、ベルギーが前がかりになってきたところでカウンターを狙いたいといった展開に感じました。
しかし、後半に入り試合は大きく動きます。
柴崎のグラウンダーのスルーパスが相手選手の足に当たり、コースが変わり最高の位置にこぼれる。
原口は長い距離を走った後ですが、世界最高峰のGKクルトワを制しスーパーシュート!
まじでGKとの一対一で、日本選手がここまでレベルの高い駆け引きを見せるとは夢にも思って見ませんでした。
まだ、香川なら分かる。
でも、原口があんな冷静にクルトワを揺さぶって、さらには最高のコースにシュートを打ち切るなんて誰も想像できないでしょ!というくらい素晴らしいシュートでした。
3バックの脇のエリアをWGの選手が突くという狙い通りの得点だったと思いますが、その後の数分で失点していてもおかしくない状況を2回も作られます。
左右にボールを振られて、ポジショニングにズレが生まれたところをベルギーは素早く突いてきました。
そして、そのポジショニングのミスは乾と長谷部の判断ミスによるものといえるものでした。
2回も立て続けに狙われているので、これはやばいなと思っていたところ…その乾が攻撃で持ち味を発揮します。
クリアボールを拾った香川が、中央のコースを開けて乾にボールを預けます。
そして、乾は迷わずきれいに振り抜き、無回転気味のボールはゴールに吸い込まれます。
原口のゴールに続き、こちらも驚くほど美しい得点でした。
この乾のシュートシーンは日本からすると物凄いチャンスな状況ですが、ベルギーの選手たちは「やばい!」という動きは見せていませんでした。
日本代表サポーターからすると香川と乾のセレッソコンビがバイタルエリアで近づいてプレイするだけでワクワクしてしまいますが、他国の選手からすれば乾クラスの選手にブロックの外から撃たれてもそこまで警戒しないのも分からなくない。
しかし、それを見事に覆す素晴らしいシュートでした。
原口にしても乾にしても、長年彼らのプレイを見ている人間ですら驚いてしまうような最高のプレイで2点をリードする状況になりました。
2-0からの采配
ベルギーの守備に穴があることはわかっていましたし、2点取ること自体にはそこまで驚きはないにしても、後半7分の時点で2-0でリードしているなんて誰がどう考えても予想以上の展開だったでしょう。
この後は皆さんご存知の通り3失点で日本は敗戦となり、2点奪われても冷静に得点を積み上げるところはさすがベルギーと思ってしまいそうですが、実際は1点返すまではベルギーに動揺が見え、急ぎすぎて簡単にボールを失う場面が目立ちます。
2点リード後の日本はプレスの位置を少し下げたことによりポジショニングのミスが目立ちにくくなり、ボールを持てる時間も増えて、自分たちのミスで危険なシーンは作られながらもこの試合の中で最も落ち着いた時間帯を迎えます。
これまでは「いつでも得点が出来そうな状況だったベルギー」が、日本のラインが下がって落ち着き始めたことによって、このままでは「日本の守備を崩せない状況」になり、後半20分にマルティネス監督が動きます。
フェライニ(193cm)とシャドリ(187cm)の投入によって流れが大きく変わります。
フェライニが右WGメルテンスに代わり投入されるということは、単純に170㎝の長友(と169cmの乾)が193㎝の選手を相手にするわけですから、そこを起点に押し込まれ始めます。
乾のクリアミスを日本ゴール前に折り返そうとしたボールがそのまま日本ゴールに吸い込まれます。
川島がニアに寄りすぎていることもありましたが、相手選手も狙ったゴールではないでしょうし不慮の事故といった感じで、このゴール自体はそんなにダメージにならないはずですが、高さで押し込まれるということはこういう事態が起こることを日本代表のサポーターは何度も味わってきたので暗雲が立ち込めます。
日本中が「うおおおおおお!まじかああああああ!」と唸ったのではないでしょうか。
2失点目は昌子が一人だけラインを上げてしまったのがどうしても目立ちますね。
普段、欧州リーグよりもJリーグを見る機会の多い自分としては自然な気がしました。
が、W杯ベスト16の試合では違います。Jにアザールはいませんからね、切れ味もリズムもさすがといった感じで一人で頷いていました…。
同点に追いつかれた日本は再びプレスの位置を一段上げ、2点先取前と同じ形になります。
しかし、フェライニ問題は解決されていません。
同点に追いつかれた7分後の後半35分、西野監督も動きます。
疲労が目立つ原口に代えて、本田を投入し右サイドに起点を作ります。
左サイドを執拗に狙われる展開の中、ボランチの柴崎、長谷部はスライドが追い付ていませんでしたので、終盤でのフィジカル面でのリスクもケアしてか柴崎に代えて山口を左ボランチに投入。
選手交代
この交代策によって、このまま押し切られそうな雰囲気の中でチームは復活し、均衡した試合展開になりました。
ただ、結果論で言うと失点前に動く交代策だったともいます。
効果が出ただけにもう少し早く動けなかったのかと…。
柴崎、乾の左サイドが明らかに狙われていました。普通に考えればここにフレッシュな選手を投入する流れですが、この二人は日本の攻撃の肝でした。
代わりに攻撃面でのクオリティを維持しながら動ける選手がいれば理想的でしたが…現実的にどうすればよかったのかと。
西野監督のミスというよりかは切れるカードがなかったというのが本当のところではないだろうか。
やはり、単純に選手層が勝敗を分ける大きな差だったなと。
相手が明らかに高さを活かしてくる状況で、日本は前半から走りまわりスタミナが残っていない…
両サイドの原口、乾は特に疲労が目立ち守備に戻れない状況で、柴崎、長谷部はスライドのズレを修正できず、左サイドバックの長友は高さのミスマッチを狙われていた。
個人的には、一失点後に高さで崩される可能性が高いのならば植田を投入し跳ね返し要因として中の人数を増やし、中盤で疲労の色が濃かった柴崎のポジションに香川を一列落とし、ポジションに戻れなくなっていた乾、原口の両翼を下げて、フィジカルで負けない高徳、武藤を投入し、重心を下げて5-4-1でカウンター気味に戦うしかないのではないかと思って見ていた。延長は4枚目のカードで本田投入で奇跡の勝利…みたいな希望を持ちながら。
現実的ではないと思いながらも、そもそもそんなオプションを用意していなかっただろうし、乾、香川を相手バイタルエリアの近い位置でプレイさせることが攻撃の柱になっていたチームでこのラインを崩すのは難しいが、それくらい思い切らないとどうこうなる勢いではないと感じていました。
しかし、チャンスを作れていたこともあり西野監督は重心を下げるよりもこれまでのサッカーをベースに闘うことを選んだとも言えるし、選ぶしかなかったようにも思える。交代のタイミングには悔しさを感じつつも、同点に追いつかれてからの交代策は実際に効果も出たし、日本が3点目を取って勝利していてもおかしくはない展開でした。
西野監督が決断したように、乾、長友の左サイドが狙われ、柴崎も動けなくなっていたので山口を左ボランチに投入、また本田を右サイドで起用し起点を作る。
引いて守ることよりも本田のところでリズムを変え、追加点を狙うという選択をすることは現実的な判断だったと思います。実際に十分に追加点も狙える試合展開でした。
悔やまれるのはベルギーがフェライニを投入し試合の進め方を明確にしたのに対して、日本代表のベンチはすぐに動けなかった。
高さへの対策と切れるカードの差と戦術の幅、そして結果的には監督の決断のタイミングが大きな差だったと感じさせる敗戦でした。
CKからカウンターで失点し終戦
その後、ラストワンプレイで延長に持ち込むことも可能な状況でCKから得点を狙いに行った日本。
本田の蹴ったボールはクルトワにキャッチされて、そこから圧巻のカウンターで沈みました。
時間をかけてゲームを進められたらと思うところもあるが、結局は日本は最後まで打ち合う以外の選択肢はなかったようにも思える。
延長を戦うのは体力的に厳しかったという見方もあるけれど、なによりあのレベルの高い試合を続ける選手個々の集中力や、戦術の幅が足りなかったと感じました。
最後のカウンター前のCKのシーンは、得点を狙うにしてもキーパーにキャッチされる高さのボールを狙うべきではなかったし、戻りが追い付かないほどスタミナが消耗している中であそこまで人数をかけるのはカウンターを警戒出来ていたのか。
キャッチされた後にしても吉田がキーパーのリリースをブロックできなかったのか、山口は戻りながらコースを消す選択をするべきではなかったのか、長友は中央を切るべきだったのではないか。そういう積み重ねが失点に繋がっている。
小さな差が結果として勝敗を分けるという意味で、日本代表の立ち位置を考えさせられるシーンでした。
議論するうえで最高の題材のはずが、あまりにも美しいカウンターのせいで悔しさや絶望感よりも清々しい終わりになってしまった感は否めませんが。
選手層
小さな差という意味では、単純にCLに毎年出場するレベルのクラブでプレイしトップレベルの試合を経験する選手が増えることが重要だと思います。
残念ながら日本代表はユーロやコパアメリカのようなレベルの高い代表戦というのはどうしても少ないですから、そこは選手個々で埋める必要があります。
(コパアメリカへの招待などの話もたまに出ますが、Jを説得できたとしても欧州組が主力の日本代表にとって欧州クラブ側の意向を考えると現実的ではないでしょう)
また、今回のポーランド戦のメンバーを見て、選手一人ひとりの底上げの必要性も感じました。
ベルギーが3戦目で主力選手を休ませられたのに比べて、日本代表はGKを除いて、CB吉田、SB長友、SB酒井、CH柴崎、WB乾(途中出場)、CF大迫(途中出場)を休ませられる状況ではありませんでした。
もちろん、突破を決めていたベルギーとは状況が違いますが、本気でベスト8以上を狙うならばW杯の日程を考えると毎回固定メンバーで戦うのは不可能です。
そして、スタミナお化け長友やCB吉田はまだしも、柴崎、宏樹はベルギー戦で、もろに影響を受けてしまっていたように感じました。
結果として、ポーランド戦でこの二人を温存するだけの状況、サブがいればまた違った展開になっていたのではないかと思ってしまう展開になりました。
日本はベルギーに比べればビッククラブでプレイできるだけの選手は少ないですし、局面で個の能力で対等に渡り合えていた選手は大迫、香川、宏樹、吉田くらいだったと思います。しかし、乾のドリブル、柴崎の視野の広さ、原口の献身性、長谷部の読み、長友の走力など欧州トップレベルでも通用する一芸を持った選手は多く、今回の代表ではそれがカチッとハマっていた。
単純に献身性や運の要素だけでなく、ここまでの結果もスタメンの全選手が良さを活かせていたからこそで、チームとして対戦国に脅威を与えるだけの強みを持っていた。
しかし、あくまでもスタメンのバランスや役割がハマっていたあり、サブの選手はそこにハマりきらないままだった。
結果論ですが、交代のカードとして有効だったのは本田と岡崎だけでした。
プロセスに問題があったので仕方ないが、宇佐美や、武藤も強みのある選手だがそこを活かせるところまでのチーム戦術として落とし込めていなかったように思う。
課題はたくさんあるが強みもある
セネガル戦の二失点目など乾の守備にはW杯を通して大きな課題が残ったし、長谷部や柴崎などほかの選手のポジショニングもW杯レベルだと大きな課題になりました。前述のように昌子の経験なども含めて、やはり日本代表はレベルの高い試合では守り切れないチームであるということは明確だと思います。
ただ、それでも守備の課題が目立った乾と柴崎が日本の攻撃を作っていたのは間違いありません。
大迫のキープや、香川が作ったスペースにより乾は輝いたし、香川や大迫のボールの引き出しで柴崎が活きて、柴崎のパスで二人が活きた。
その流れを長友、原口が献身的に走り回り勢いをもたらした。
その長友の裏のスペースを昌子はよくカバー出来ていたし、吉田はプレミアで長年闘うだけあって日本人CBがここまでのレベルまで成長できることを見せてくれました。吉田という世界トップレベルでやれるレベルの選手がいたからこそ、日本が前からプレスに行ける戦術を取れたといっても過言ではない。
吉田と並んで、香川は日本代表レベルでは頭一つ抜けているレベルの選手であることは間違いありませんが、その能力を大舞台でやっと発揮してくれました。
相手チームの監督が戦術変更に踏み切るほど危険なプレイをする選手でした。
その香川と長年に渡り、日本代表を支えてきた本田や岡崎が交代で投入されてしっかりと結果を残しました。
前述の通り、選手の個性がカッチリとハマり奇跡ではなく、実力で強豪国と戦えていたと思います。
未来への希望
終盤のフリーキックを枠に飛ばすところは「流石、本田!」とも思わせたし、2010年と重ねてしまった人少なくないだろう。
ボールの威力に関しては身体的な衰えも感じさせ、終わってみればベスト8までの距離感を感じさせられたような象徴的なシーンのようにも思えてくる。
この数年間で、香川がドルトムントで2連覇を達成しその後マンチェスターユナイテッドに移籍、長友のインテルに移籍、本田のCLでの活躍、内田のシャルケでの活躍、岡崎のブンデス15Gにレスターでのプレミア制覇…この8年は日本のサッカーファンにとって正しく夢のような驚きがたくさんある時期でした。(良い結果にはならなかったけど清武のセビージャ移籍や宇佐美のバイエルン遺跡などもいろいろなニュースがありました)
こんなにわくわくするニュースが立て続けに起こることはしばらくは期待できないと思います。
そして、本田(31歳)、長谷部(34歳)、高徳(27歳)の代表引退を始め、今回のW杯で活躍した乾(30歳)、長友(31歳)、岡崎(32歳)、川島(35歳)なども次回のW杯では大ベテランの年齢です。引退している選手もいるでしょう。
次回のW杯も主力で戦っているイメージを自然と持っていた香川(29歳)、吉田(29歳)、宏樹(28歳)、大迫(28歳)、原口(27歳)も考えてみれば、次回のW杯では今回の本田の年齢以上なんですね。まあ、前線の選手と後方の選手の違いや、前提として選手個々のピークは違いますし、プレイスタイルにもよるんで、一概に何歳がどうこうとは言えませんが。
改めて振り返ってみると、当初から言われていましたが年齢層の高い代表でした。
しかし、今後の日本代表に期待を持てる大会になったのは選手のポテンシャルだけでなく、日本の目指す方向性をしっかり示せた大会であったことが次回へ期待できる点だと思います。
もちろん、戦力の底上げもこれからどうなるかは誰にもわかりません。
今回の主力で唯一のJリーガー昌子は、代表経験も少なく3戦すべての試合の立ち上がりで相手FWに翻弄されていました。
特にセネガル戦なんかはニアンに翻弄されまくっていて、絶対ここから崩されるわあ…と絶望したほどでした。
しかし、試合の中で徐々に対応できるようになっていき、前半の途中あたりからは抑え込めるようになっていました。
CBとして欧州トップリーグでプレイするには身長は足りないかもしれませんが、十分に世界で通用する選手だということを証明したと思います。
今回のW杯では出場の機会のなかった植田もJでのプレイを見る限りは昌子以上のクオリティを見せていますし身体能力の面で言えば日本でも歴代トップクラスの選手でしょう。、いないよねと。
そのほかにも出場機会のなかった大島、遠藤航、中村航輔、選出されなかったが最後まで候補に挙がっていた三竿なども、今回の悔しさをバネに彼らのうち何人かは海外に挑戦することになると思います。
選出されませんでしたが、予選で活躍した久保、浅野、井手口なども海外で順調とは言えない厳しい挑戦の中にいますし、切り札枠で選出されていても不思議でなかった中島や堂安も上のリーグにステップアップしていくでしょう。
現在、Jリーグで活躍する杉本、鈴木優磨、伊東純也、安部、中山雄太、松原后などのポテンシャルの高い選手たちの飛躍…そして伊藤達哉や冨安健洋などの海外でプレイする選手を始め多くの選手が成長していくでしょう。(東京五輪もありますしね)
4年前は清武、山口が今大会の主軸になっていると思っていましたし…まあ、4年後の選手予想なんて大体外れます。
2010から続いた日本代表のイメージは変わらざる得ない世代交代が始まりますが、きっと素晴らしい試合を国際舞台で見せてくれると期待しています。

KKK

最新記事 by KKK (全て見る)
- グルメバーガー屋開業から1年経ちますが、私はもう… - 2020年11月18日
- 久しぶりのゾイドに感じたあんなことやこんなこと - 2019年10月27日
- 2019冬の日本人選手の欧州移籍一覧(随時更新) - 2019年8月14日
- ついに、僕のハンバーガー屋が始まる - 2019年5月18日
- 香川真司、スペインではなくベシクタシュ(トルコ)移籍の経緯 - 2019年2月1日